天(天部)は、密教における神々を意味する尊格の一つ。ほとんどは古代インドのバラモン教の神々が仏教に取り入れられ、仏の守護神となったものです。サンスクリット語のdeva(デーヴァ:神を表わす)が中国で天と訳されました。仏像における天の種類は様々で、代表的なものとして、梵天、帝釈天、四天王、金剛力士、八部衆、十二神将などが挙げられます。如来、菩薩、明王が仏と呼ばれるのに対し、厳密に言えば天は仏ではなく、あくまでこれら仏を守る守護者の立場を取るため、仏像の尊格でいうと一番下位に位置付けられます。天部像はその制作年代や作り手によって大きくその姿を変えるのが特徴で、奈良にも数多くの個性的な天部像が今も残されております。
それでは、代表的な天部像をご紹介しましょう。
※仏さまの可愛らしいイラストは、『奈良観光ガイド』の スタッフ さんの力作です! ときどき更新していきます。お楽しみに!
梵天・帝釈天
梵天は古代インドのバラモン教の主たる神の一つであるブラフマーが仏教に取り入れられたもの。釈迦は悟りを開いたときにその教えを広めることを躊躇われました。その悟りを広めるよう説いたのが梵天とされ、この説話は『梵天勧請』と呼ばれています。帝釈天はバラモン教、ゾロアスター教の武神インドラが仏教に取り込まれたもの。神話ではあの阿修羅と戦い、降伏させたほどの力を誇ると言われています。梵天と帝釈天は一対の像として表わされる場合が多く、天部像の中では最高位とされます。奈良時代の像は唐の武将の姿をしているのが特徴。密教が盛んになる平安時代以降、梵天は鵞鳥、帝釈天は白象に乗るものが多くなります。
東大寺法華堂梵天・帝釈天像
東大寺法華堂に安置されている梵天像及び帝釈天像は、奈良時代の国宝。脱活乾漆という珍しい造りで、塑土の原型の上に麻布を漆で貼り重ねて造形されています。本尊の不空羂索観音像と三体並んでいる姿はまさに壮観です。
像名: | 梵天・帝釈天立像 |
文化財区分: | 国宝 |
制作年代: | 奈良時代 |
材質: | 脱活乾漆 |
像高: | 402cm(梵天)403cm(帝釈天) |
安置場所: | 東大寺法華堂 |
その他で見られる場所
唐招提寺(金堂)/興福寺(国宝館)/秋篠寺(本堂)/など
四天王
四天王は須弥山の四方(東西南北)を守護する四神。お寺の堂内においては須弥壇の四隅に安置されます。東に持国天、南に増長天、西に広目天、北に多聞天を配します。それぞれが剣や鉾、筆などを持ち、武人姿の憤怒相をしています。中でも北を守り宝塔や鉾を持つ多聞天は、七福神の一人でもある毘沙門天とも呼ばれ有名です。四天王は台が鬼になっているものが多く、踏みつけられている鬼の表情も注目ポイントです。
東大寺戒壇堂四天王像
唐僧鑑真ゆかりの東大寺戒壇院には、奈良時代の国宝・四天王像が安置されています。『唐大和上東征伝』によれば、嵐に襲われた鑑真和上は四天王に守られながら日本への渡海を果たしたとされています。薄暗いお堂の中を廻りながら間近にみる四天王像の存在感は圧倒的です。
像名: | 四天王立像 |
文化財区分: | 国宝 |
制作年代: | 奈良時代 |
材質: | 塑像 |
像高: | 約160cm |
安置場所: | 東大寺戒壇堂 |
その他で見られる場所
法隆寺(金堂)/法隆寺(大宝蔵院)/唐招提寺(金堂)/西大寺(四王堂)/など
八部衆
八部衆は釈迦如来の眷属として仏法を守護する八神で、古代インドの神々が仏教に帰依したもの。天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽の8体が基本となります。宝剣、宝珠、日、月などさまざまな持物を持ち、その法力で仏教、信者を守っている。奈良の八部衆像といえばなんといってもこちらです。
興福寺八部衆像
奈良時代(734年)、創建された西金堂の釈迦如来像の周囲を守る八部衆像が制作されました。麻布や漆を用いた脱活乾漆造という技法(詳しくはコチラ)で、半人半獣の姿や3つの目、ツノ、頭部につける獣など、それぞれが非常に個性的で異形。中でも阿修羅像は、3つの顔、6本の腕、赤い肌など、インド神話の戦争の神アスラの特徴を持ちながら、華奢な体や腕が女性的で、憂いを含めた表情から天平の美少年とも称えられています。
像名: | 八部衆立像 |
文化財区分: | 国宝 |
制作年代: | 奈良時代 |
材質: | 脱活乾漆 |
像高: | 約150㎝ |
安置場所: | 興福寺国宝館 |
その他で見られる場所
法隆寺(五重塔)/など
十二神将
十二神将は薬師如来の眷属として薬師如来とその信者を守る守護神で、日本では十二支に結び付けられ、方角を守る神として信仰されています。毘羯羅、招杜羅、真達羅、摩虎羅、波夷羅、因達羅、珊底羅、頞儞羅、安底羅、迷企羅、伐折羅、宮毘羅の十二体からなり、鎧を纏って宝剣など武器系の持物を持つものが多いです。また像によっては頭頂部に干支を戴いている場合もあります。奈良の十二神将像といえばこちらです。
新薬師寺十二神将像
光明皇后が聖武天皇の病気平癒を祈って建てたという新薬師寺には、本尊・薬師如来とともに十二神将立像が安置されています。奈良時代に製作された塑像(1体は補作)で、日本最古最大の十二神将像とされています。激しい怒りの表情をし、薬師如来の周りを厳重に警備するような佇まいは拝観者を圧倒します。
像名: | 十二神将立像 |
文化財区分: | 国宝(うち一体は補作) |
制作年代: | 奈良時代 |
材質: | 塑像 |
像高: | 約150~160㎝ |
安置場所: | 新薬師寺本堂 |
その他で見られる場所
室生寺(金堂)/秋篠寺(本堂)/興福寺(国宝館)/など